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カニ風味 [考えるシリーズ]

考えるシリーズ 001
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 ふと気がつくと、鮮魚コーナー前にぽつねんと立ちすくむ僕を取り囲むようにして、
何やら人の壁が出来上がっていた。海流に乗り、回遊する魚影の如く、ひとり、ふた
りと群れに加わるようにその数を増し、緩やかに熱を帯びながら次第に膨れ上がって
いく。このまま人波にのみ込まれ、身も心も翻弄されながら僕はこう思うだろう。
 ____ああ、ここもまた広大な海原なのだ。

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『 本 品 は カ ニ で は あ り ま せ ん 』

カニ風味系食品のパッケージにさりげなく添えられた、この素敵な一文がたまらなく好きだ。
いわゆる蟹身肉の様相を模した蒲鉾のことで、食す事自体はさして好きでもないのに、
店頭で見かけるとついつい手に取ってしまう。
勿論の事、カニではないと承知の上で品を手にして何をするのかといえば、
まずはその一見カニっぽい様を心ゆくまで堪能し、件の注意書きに目を落としては、
今気がついたと言わんばかりに感心するのである。
ふむ、これはカニではないのだな、と。
こんなにカニっぽく似せてあるのに、カニではないのだなぁとひとり納得するのだ。

わざわざ手に取り確認するまでもないだろう、そう思う方もいるかもしれない。
確かにその通りで、商品詳細や表示における但書の本来の意味はさておき、
見た目からして(敢えて意図的だとしても) カニ身姿には到底及ばず、
それとなく似せてはあるとは言えども、所詮は蒲鉾。
注意書きすら必要なかろうという品が大半を占めているのが実情だろう。

つまりはこういう事なのだ。
大海原を悠々と泳いでいた魚たちの行く末が、まったく別の生き物、すなわちカニ扱いであり、
カニに見えないこともないのだが、作りは大雑把で明々白々、明らかに蒲鉾である。
いやいやいや、蒲鉾にしては妙に頼りないというか、その身も文字通り板についておらず、
はてさて、これはどう捉えていいものやら…などと、物知らぬ素振りにて思い馳せている時、
そこに『カニではありません』という一文が飛び込んで来る。

_____何奴かとお思いでしょうが、少なくともカニではないのです。

この微妙で曖昧な蒲鉾の在り方がまた何とも言えずに可笑しく、また物悲しく、
思わず手に取ってしまう理由なのである。

これらの戯れは今日まで幾度となく繰り返されてきた。
大事なのは、常にそれと知りつつも『おや? こんな所にカニがあるぞ』という
真摯な態度で向き合うことだと僕は思う。


20070701s.jpg
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まだまだ続く、のだった

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